2024年12月23日(月) 17:10 JST

れじぇんど?

職場件実家のお話。
( ぬいいとさんは、実父、姉夫婦の商売である食堂で
  毎日働いている。)

振り出した小切手(結構高額)の金額が
忘れないようにカレンダーに赤字で書かれてあるのを見て
オヤジがのたまう。

「 この米屋の\64,050.-は、明日まわってくるんやな?
  昨日の支払いは全然足らなんだしなぁ。
 まぁ、あの売り上げじゃぁ、しゃぁないわなぁ。
  ワシが出したお金、余裕できたら返してください。
 カァ〜!キビシい世の中になったなぁ!」

こうやって文章にして書き出すと、ネガティブな状況だが
私はこの父のボヤキを聞きながらこう思っていた。

よくぞここまで戻った。」

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お客さんが使った湯呑みを洗うところで
オヤジが自分のはめている入れ歯を洗う。
洗い場のお湯に何やら得体の知れないモロモロを残して
オヤジは涼しい顔をして入れ歯をはめながら立ち去る。

ぬいいとさんと実姉 keshidama さんが怒る。

ぬ「 あ!おとうちゃん、またあんなとこで入れ歯洗ってるで!」

ke「 え〜!?いやぁ〜ん!もう!
  油断もスキもあったもんやないわ!」

ぬ「 ひぇ〜!なんか変なもんいっぱい浮いてるし!」

ke「 あ〜ん、またお湯換えなアカンやん。」

ぬ「 まぁでも、自分で勝手に入れ歯洗えてるだけマシか?」

ke「 そやな、あんなん『 洗ってくれ 』言われても
   こっちはイヤやしな(笑)。」

クックックッと笑う姉妹ふたり。
今にして始まったことじゃない諸々のオヤジの非常識行動も
今はオヤジ復活のバロメーターだ。

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1月に手術、そして3週間入院していたオヤジ。
高齢者の長期入院は周りが思う以上に本人にとって
ダメージがかなりキツく、衰えが急速に進んでいくと
主治医の先生から説明をうけた。
筋力ももちろんそうだが、何より思考回路の衰えも
想像を絶するほどだという。

病状が完全に回復しない状態で「そちら」の方が心配になって
本人、主治医、家族同意の上でメインの病気の治療も
そこそこにして入院生活を切り上げてきた。

入院中は今日が何月何日なのかとか、業者さんの名前だとか
餡を炊くときの砂糖の分量だとか、売り上げ計算だとか
半世紀以上やってきたことまであやふやなになっていく
状態だった。

退院したあとも、あれだけ毎日買い出しに行っていた
スーパー玉出の名物「 1円セール 」も
「 なんじゃ?それ。 」
と、忘れ去っていた。

ほどなく、今度は厨房をキリモリする義兄がダウン。
1日も休む余裕がない台所状況。
カラダがキツいから休みたいというオヤジを
なんとかなだめて「 お客様入場制限モード 」で店をあける。

「 くれぐれも無理のないように、ご近所散歩する程度にね。
 特に転倒には気をつけてあげて。」
退院時にこういって送り出してくれたマキ子先生。
まさかこんなスパルタリハビリになってるとは
夢にも思ってないだろうな。
なんて、冷酷非情な娘たちだ。(笑)←笑い事やない。

それでもボケボケながらも身体で覚えていることは鉄板。
ゆっくりながらも、注文の合間にいちいち腰をかけながらも
うどんや丼をあげていく。

「 あんたら、寄ってたかってワシを殺しにかかってるんか?」
マジ顔でつぶやくオヤジ。
痴呆症に見られる被害妄想を差し引いても
この発言は的を射てたかもしれない。
「 リハビリ 」と言うにはあまりにキツい退院後の生活だった。

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「 もう、おはぎ作ったり品物あげたり、なんてことは
  まず、でけへんやろな。
  もしかしてボケボケで夜中徘徊?」
入院中の状況を見て、そう覚悟を決めていたのだが
娘たちが強いた冷酷なほどのリハビリのおかげで
多少の天然ボケはあるものの、入院前レベルの生活まで
戻りつつあるオヤジ、89歳である。

探偵ごっこ・結

(「 探偵ごっこ・起
 「 探偵ごっこ・承
 「 探偵ごっこ・転 」よりつづき。)

「 家系図 」を辿るのにも出費が生じる。
歴史が浅く、移動の少ない人物ならば数百円で済むのだが
歳を重ねてるほど、そしてアチコチさすらっている人物ほど
その「 家系図 」の枚数は増えてくる。
ここに至るまでの出費は自力で動いているにもかかわらず
ざっと四千円弱。
なんてこたぁない主婦にとっては結構イタい金額だ。

もし「 尋ね人 」がさすらいの旅人ならば
この先もある程度の出費を覚悟しなければ。
あ、免許証のコピー、この際だから5・6枚とっておこう。
封筒もたくさんいるかもな。百均で買っておこう。

尋ね人捜索が難航することを予測して準備を進める中
調査を依頼していた鳥取から書類が届いた。
もし「 尋ね人 」がさすらいの旅人だとしたら
また次の地に調査を依頼しなければならない。
ぶっちゃけ、出費が痛い。

「 さすらいの旅人でありませんように。」

そう願って鳥取からの便りを開けると
「 家系図 」が1枚だけ出てきた。
昔文字の漢数字をゆっくり目で追うと最後にこう記してあった。

『 尋ね人さん、昭和の時代に、ふなっしーの生地にて死亡。』

…ぬいいとさんの探偵ごっこ、あっけなく終了。

「 さすらいの旅人 」を願わずも大いに想定していただけに
なんだか右脳に左脳に、そして心にぽっかりと
穴があいてしまった。
最初は煩わしいとさえ思った「 尋ね人 」なのに
もう会えないと解ると、後から寂しさがじわじわと襲ってきた。
残念である。

天に召されてもう30年以上も経つ彼の「 その後の家系図 」は
たいそう簡素なものだった。
命日は、この探偵ごっこが終わった日の6日後とあった。

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早速「 同志 」の彼女にも結果を知らせる。
彼女も私と同じ思いでいたようだ。

「 え!?なんで亡くなったん!?なんで船橋なん?!」

「 家系図 」に何もかもが載っていると勘違いしたE子が
食らいついてくる。
「 家系図 」には生死に関わる時と場所は明記されてても
いきさつや死因までは載っていない。
E子、ごめんやけどそこまで調べようと思ったら
今度は正真正銘の探偵さんに依頼しないと。

信心深いE子が言葉を続ける。

「 命日、いつ?また勤行あげとくわ。」

涅槃の「 尋ね人 」は、それを煩わしいと思うだろうか。
それとも
「 え?ホンマ?へへ、ほな頼むわ。」
と気さくに笑うだろうか。

( おしまい )

探偵ごっこ・転

(「 探偵ごっこ・起 」「 探偵ごっこ・承 」より、つづき。)

「 尋ね人 」の足取りを辿るべく、鳥取へ向けて
アクションを起こす。
鳥取からのお返事を待つ間に「 尋ね人 」である彼に対して
あれこれと思いを馳せる。

最初は「 ちょっと煩わしい 」と思っていた彼の存在だが
よくよく考えてみると彼からすれば私、いや、我々の方こそ
煩わしい存在なのかもしれない。
どこまで我々のことを認識しているのかわからないが
もし、彼が我々の存在の認識なく「 然るべき時 」が来れば
彼の前に我々がどやどやどやとにわかに登場する事になるのだ。
彼にすれば煩わしいことこの上ない。(笑)
彼にとっては全くもって迷惑なお話だ。

自らの保身のために始まったこの探偵ごっこだが
相手側にこそ守るべきものがたくさんあるかもしれない。
そんなところまで心が及ぶようになった。

「 やっぱり彼のためにも一度会っておかないと。」

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私と同じ立場の「 同志E子 」にも
「 尋ね人捜索 」の経緯を話す。
まだ見ぬ「 尋ね人 」の彼のことでE子と話が盛り上がる。

E「 なぁなぁ、その『 尋ね人 』の彼さぁ
めちゃくちゃ大金持ちやったりしてなぁ。」

ぬ「 そやなぁ!めっちゃお金有り余ってて
ウチに寄付してくれるとか?(笑) 」

E「 あははは!ナイナイ(笑)(笑)。」

ぬ「 どんな顔してるんかなぁ。
ウチの一族と同系の顔してたら笑うよなぁ(笑)。 」

E子とそんな話をしているうちに
私の中で「 煩わしさ 」が「 楽しみ 」に変わってきた。

「 ひょっとしたら案外めちゃくちゃ気さくな人かもしれない。」

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ぬいいとさんの右脳の中で妄想劇場が始まる。

ぬ「 あ、どうもはじめましてぇ!」

尋「 あ〜、どうもどうも〜! 」

ぬ「 え〜っとぉ、何てお呼びしたらいいかわからないんで
とりあえず『 おにいさん 』とでも
呼ばせてもらいますねぇ。」

尋「 はぁ?いきなりえらいフレンドリーですやん!(笑)」

ぬ「 あ、特に深い意味はないんで気になさらないで。
私、三姉妹の末っ子で姉がふたりとも結婚してるんで
昨日まで他人やった人を『 おにいさん 』って呼ぶことに
あんまり抵抗ないんで、軽く受け止めてくださいねぇ。」

尋「 ほんまかいな、まぁ何でもえぇわ(笑)。ほな話進めまひょ。」

そんな自分に都合のよいシチュエーションが
私の右脳の中で勝手に膨らんでいく。
アカン、マジで会うのが楽しみになってきてしまった。
もし会ってめちゃくちゃ冷たい態度とられたら
美化しすぎた分、立ち直られへんかも。

(「 探偵ごっこ・結 」 へ続く。)

探偵ごっこ・承

( 「 探偵ごっこ・起 」よりつづき )

まずは何の拘束もなく純粋に自力で遡れるところまで
「 家系図 」を遡る。
自分自身に直接関わる「 家系図 」なぞチョチョイのチョイで
手に入るものとタカをくくっていたが、意外に手間取る。
2度に渡る戸籍改正もあって、取り寄せた書類は3通に及んだ。

予測していた以上に「 家系図 」の登場人物は多岐に渡った。
熟知している人、ちょっと知ってる人、名前だけ認知してる人
初めて名前が判明した人、存在自体を初めて知らされた人。

大正時代に書かれた読みにくい昔文字の漢数字を
必死で辿っていく中で、意外な人物が大昔に
パートナーの誕生日に入籍していた事が
発覚。

「( ̄ー+ ̄) ぃゃっ!あのキャラでバースデー入籍かぃ!」

そんなこんなで数枚に渡る書類上に登場する
いろんな人達の人間模様に触れて、横道に逸れまくりながらも
とある人物に行き着く。
その「 尋ね人 」はもう私が生まれるズーッと以前に
その「 家系図 」から自らの母と共に退いていた。
さて、ここから先の捜索はちょっとばかりの
「 ごまかし 」が必要となる。
まずは「 オヤジ 」になりすまして書類書いて判を押さないと。

舞台は豊岡から鳥取へ移る。

(「 探偵ごっこ・転 」へ続く。)

探偵ごっこ・起

その人の存在を知った時、正直なところちょっと
煩わしさを感じた。

見たことも聞いたことも、ましてや会ったこともない肉親。

例えば「 いとこの子どもの子ども 」など
そのような肉親って、結構どこにでも存在するので
あまり深く考えないようにしていたのだが
歳を重ね、いろんな知恵知識が身につくにつれて
考えざるをえない状況であることを次々と認識することとなった。
そう、双方がどう思っているのか、対面を望んでいるのか否か
そんな感情論いぜんに「 事務的なこと 」で
いずれその人と関わらざるをえない状況なのだ。
それも場合によっては1度ならず2度3度も。

「 コレは捜し出さないと。」

然るべき時が来たときにその道のエキスパートにお願いして
本人さんと顔を合わすことなく事を済ませる術もあるが
その場合、そのエキスパートを雇うのに
幾ばくかのまとまった資金が必要となる。
しかし、そんな余裕は我が家にはない。
今すぐ会う、会わないは別として
自力でその人の居場所を突き止めるには今しかない。

「 捜そう。」

ぬいいとさんの探偵ごっこが始まった。

(「 探偵ごっこ・承 」へつづく。)

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