2024年12月24日(火) 01:39 JST

お話上手・その3

(「 お話上手・その1
 「 お話上手・その2 」よりつづき )

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「 なんで加害者がオレらの住所知ってるねん?!
  被害者のオレらが加害者の居場所教えてくれ言うても
 絶対教えてくれへんのになんでアッチには教えるねん?!
  おかしいやろ!!」

小粋ないでたちの殿方が謝罪にきた男性に向かって吠えた。
あの不幸な出来事があってからわずか数日のあいだに
もう何回彼を見ただろう。

無免許の未成年が運転していた車が登校途中の小学生の列に
突っ込み、尊い4つの命が奪われた亀岡市での事故。
冒頭のシーンは事故の数日後に加害者の父親が被害者宅に
謝罪しにきた時だったか
情報漏洩した警察が謝罪にきた時だったかのやりとりが
オンエアされた時のもの。

「 本当はこんなテレビだとか表立ったところになんか
  誰も出たくない。  だけど誰かが言わなきゃ忘れられてしまう。
 娘や孫が遭ってしまった悲劇を風化させちゃいけない」
身重だった娘を亡くした彼はその後も幾度となく
メディアに登場した。

事故当初はカメラが向けられた時だけ受け答えをしていた彼。
その彼が危険運転致死傷罪の高い壁にぶち当たり

「 法律を絶対にかえてやる 」

という使命を背負った時から
自らカメラの前に出向くようになった。

おそらく初めてであろうスタジオセットの中で
緊張した面持ちでMCの質問に答える彼。
声はこころなしか上擦っていた。

「 この人も、これからだんだん『 お話上手 』に
  なっていくんだろうか。」

ふと、そう思った。
横田さん、光市の本村さん、東名高速の事故で亡くなった
姉妹のご両親、松本市の河野さん…
私が気づいた時にはもうすでに皆さん『 お話上手 』だった。
カメラ取材にも上擦ることなく落ち着いて、淡々と語られる。
皆さん、もとはといえばこんなにメディアに晒されることが
ないはずの一庶民だった。
『 運命のいたずら 』
それがなければ。

自らメディアに出向いた彼の出で立ちは
カッコいいちょい悪オヤジ風ではなく
凛々しいスーツ姿だった。
世間一般の感覚からすれば当然のことだが
彼にすればこのスーツは「 鎧 」を意味するのではないか
と感じたのは私の思い過ごしだろうか。

こんなことで著名になることは彼にとって本意ではない。
「 できることならば娘とかわってやりたい 」
彼の成し得ない本当の願い、痛いほどよくわかる。

彼が「 お話上手 」になる前に、少しでも早い時期に
彼の「 せめてもの願い 」が成就することを祈るばかりである。